雀荘の粗利率は、じつは飲食店よりずっと高い。ゲーム代には仕入れがないからです。それなのに「雀荘は儲けにくい」と言われます。なぜか。収入とコストを具体的な金額で組み立てて、この矛盾を解いていきます。数字は公開相場と前提つきのモデル試算で、実在の店ではありません。実際は立地・規模・時間帯で大きく変わります。
「粗利が高い」とはどういうことか
「粗利」は売上から原価(仕入れ)を引いたもの。1,000円のランチに食材300円なら粗利700円、粗利率70%です。
では雀荘のゲーム代の原価は? ほぼゼロです。売っているのは「打つための場所と時間」で、モノを仕入れて消費するわけではない。だから受け取ったゲーム代は、ほぼ全額が粗利として残ります。粗利率は限りなく100%に近い。飲食のように「売れば仕入れも増える」構造ではないので、席が埋まればそのまま利益の素になる。「雀荘は儲かりそう」という直感は、ここから来ます。問題は、この高い粗利を最後まで守れるかです。
収入は三本立て ── ゲーム代・席料・飲食
雀荘の売上は三つの源から成ります。
- ゲーム代(フリー):一人客同士が卓を囲む形式。一半荘300〜500円ほど。回転が速く、席が埋まれば安定して積み上がる主力。
- 席料(セット):仲間内のグループに卓を貸す形式。時間あたり課金で、接客の手間が少なく長時間利用につながる。
- 飲食・会員:ドリンクや軽食、月額の打ち放題や会員制。飲食は多少の原価があるが利益を乗せやすく、会員制は売上を安定させる。
この三つをどう組むかが店の個性になります。ではフリー主体の店で、実際にいくらになるか組んでみます。
収入をモデルで組み立てる(前提つきの概算)
架空の店で概算します。実在店ではありません。
- 立地:都心のビルの一室
- 規模:5卓(20席)、フリー主体
- ゲーム代:一半荘400円、営業12時間
「1卓が1時間に約1半荘回り、4人ぶんで1,600円」とし、平均で半分(2.5卓)が稼働すると仮定すると、1日のゲーム代は1,600円 × 2.5卓 × 12時間 = 約4.8万円。飲食を足して日商5〜6万円、月25日で月商130〜150万円。原価がほぼないので、この売上のほとんどがそのまま手元に残る計算です。ここまでは、いかにも景気がよさそうに見えます。
そして固定費が待っている
問題はここから。粗利を削る主役が家賃と人件費です。
麻雀は一卓に四人、卓間にも通路が要るので、5卓なら20〜30坪ほど必要。都心の駅近・深夜営業可の物件なら家賃は月15〜30万円。しかも家賃は客が来なくても同額が出ていきます。人件費は深夜シフトで月30〜50万円。加えて光熱費・卓のメンテ・消耗品で数万円。合計で毎月50〜90万円が固定で出ていく。
先ほどの粗利からこれを引くと、手元に残る営業利益は月数十万円まで縮みます。粗利率はほぼ100%なのに最終利益は薄い──これが「粗利は高いのに儲けにくい」の正体です。開業時も、物件・内装・全自動卓5台などで開業資金は300〜500万円、余裕を見れば800〜1,000万円かかります。
フリー雀荘特有の「メンバー問題」
人件費をさらにややこしくするのが、フリー雀荘の慣習です。
フリーは一人でも打てるのが魅力ですが、麻雀は四人そろわないと始まらない。三人しかいなければ、店員が四人目として卓に入る「メンバー」で成立させます。これは欠かせないサービスですが、経営から見ると悩ましい。卓に入っている間、その店員は接客も清掃もできず、負け分の負担が絡むこともある。つまり「四人目を埋める人件費」が売上を生む前に発生する。客が少ない時間帯ほど、この構造が重くのしかかります。
だからフリー雀荘は「いかに自然に四人がそろう状態を作るか」に知恵をしぼる。常連を増やす、混む時間に集客を寄せる、会員制で来る理由を作る──どれもメンバーに頼らず卓を回す工夫です。
全自動卓という投資 ── 雀荘は装置産業
雀荘の標準装備、全自動麻雀卓は「回転率を買う設備投資」です。手積みより一半荘が短くなり、同じ営業時間でより多く回せる。原価ゼロのゲーム代ビジネスでは、回転率はそのまま売上です。
価格の相場は、家庭用(基本)10〜20万円、家庭用(点数表示つき)20〜30万円(例:AMOS JP-DG 税込198,000円)、業務用は40〜60万円以上。店はこの費用を、速くなった回転が生む追加売上で回収していきます。
この判断は家庭にも当てはまります。4人で月2回セット卓に通うと、1回3時間・一人1,500円なら4人で6,000円、年間6,000円 × 24回 = 約14.4万円。20万円の家庭用卓なら20万円 ÷ 年14.4万円 = 約1.4年でペイし、以後はゲーム代ゼロで打ち放題。よく打つ仲間がいるなら、家に一台は現実的な投資です。(機種の選び方は別記事「道具えらび」で扱います。)
儲かる雀荘が引いている三つのレバー
結局、雀荘の利益は三つのレバーで決まります。
- 稼働率:空き時間をイベントや会員デーで埋め、全自動卓で回転を速くする。席が埋まる時間の長さがそのまま利益。
- 固定費:家賃の安い立地、オーナー自身の現場入りで人件費圧縮。地方の店が健闘できる理由の多くはここ。
- 客単価:飲食を魅力的にし、打ち放題や会員制でまとめて払ってもらう。
雀荘経営とは、煎じ詰めれば「卓という装置の稼働率を、固定費に負けない高さまで引き上げるゲーム」です。卓の上で客が競う同じ時間に、経営者は別のゲームを戦っている。そう思うと、街の雀荘の見え方が少し変わります。
数字に強くなると、麻雀の見え方も変わる
「粗利は高いのに儲けにくい」。原価ゼロのゲーム代は粗利率抜群でも、広い床の家賃、四人目を埋める人件費、装置への投資という固定費が、それを静かに削る。だから最終利益は薄い。これが雀荘の骨格でした。
この構造を知ると、いろいろが腑に落ちます。ゲーム代がなぜその値段か。なぜ会員制や打ち放題が増えたか。なぜ全自動卓が当たり前か。どれも「高い粗利を固定費に負けず残す」という同じ問いへの答えでした。
雀BOYは、どの団体にも属さず麻雀を横から眺める立場でいたい。役や強さだけでなく、お金の構造を知ることも、麻雀を長く好きでいる楽しみ方のひとつです。次に雀荘の扉を開けるとき、卓の向こうで回るもうひとつのゲームに、少し思いを馳せてみてください。
この記事は特集「麻雀ビジネスの地図」のスピンオフです。
※金額は公開相場と前提つきモデル試算にもとづく概算です。特定の店舗の実際の収益・費用を示すものではなく、立地・規模・時間帯・時期で大きく変わります。








