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AIが選ぶ一番強い雀士は? ── データは『強さ』をどう測るのか

2026.07.03

もし人気も忖度も抜きで、AIだけが『一番強い雀士』を選ぶとしたら。何を見て、誰の名が挙がるのか——を真面目に考えてみる。

「結局、麻雀で一番強いのは誰なのか」。ファンなら一度は考える問いです。でも麻雀は一局ごとに運が大きく作用するゲーム。人気や知名度を抜きにして、純粋な「強さ」を測るのは簡単ではありません。

そこで、ひとつの思考実験です。もし感情も忖度も持たないAIが、データだけを見て「一番強い雀士」を選ぶとしたら——AIは何を手がかりにし、誰の名を挙げるのでしょうか。

まず「強さ」をどう定義するか

人間はつい、派手な逆転劇や記憶に残る一打で「強い」と感じます。けれどAIは、印象では判断しません。AIが見るのは、長期間にわたって積み上がった数字です。

麻雀の実力をデータで語るとき、よく使われる指標がいくつかあります。

  • 平均順位 — 4人で打って、平均して何位に収まるか。長く打つほど実力が表れる、最も基本的な指標。
  • 放銃率(ほうじゅうりつ) — 相手にあがられて点棒を払う頻度。低いほど守備がうまい。
  • 和了率(あがりりつ) — 自分があがれる頻度。攻撃力の目安。
  • 副露率や立直率 — 打ち方のスタイルを映す数字。

強い打ち手は、これらのバランスが優れています。攻めて和了率は高いのに、放銃率は低く抑えられている。そして何より、平均順位が長期で安定して上位にある——AIが最初に注目するのは、まさにこの「安定感」でしょう。

AIならではの物差し ── 「AIとの一致率」

近年は、もう一段おもしろい指標が加わりました。麻雀AIとの一致率です。

「NAGA(ナガ)」に代表される麻雀AIは、膨大な対局データを学習し、ある局面での「最も期待値の高い一打」を導き出します。実際のプロの選択が、そのAIの推奨手とどれだけ一致するか——これを測れば、その打ち手の判断が「理論的にどれだけ正確か」を数値化できるのです。

つまりAI的な「強さ」とは、長期成績の安定に加えて、一打一打の選択がAIの最善手にどれだけ近いか、と言い換えられます。マイクロソフトが開発した「Suphx(スーフェックス)」がオンライン対戦でトップ級の段位に到達したように、AIはすでに人間トップと渡り合う水準にあります。その物差しで人間を測る時代が、もう来ているわけです。

データはどこに眠っているか

AIが人を評価するには、大量の対局記録——牌譜(はいふ)が必要です。その宝庫になったのが、オンライン麻雀です。

「天鳳(てんほう)」や「雀魂(じゃんたま)」といったネット麻雀は、一打ごとの選択を膨大に記録し続けています。天鳳の段位や「天鳳位」という称号は、何千・何万という対局の積み重ねの上に与えられるため、運の偏りがならされた「実力の証明書」として一目置かれてきました。プロの中にも、ネット麻雀の高段位を実力の裏付けとして語る人は少なくありません。

こうしたデータの蓄積があってはじめて、AIは「この打ち手は長期的にどれだけ正確か」を測れるようになります。AIの評価は、ネット麻雀が積み上げた巨大な記録の上に成り立っているのです。

名前が挙がるであろう雀士たち

では、こうした基準で高く評価されそうなのは誰か。あくまで一般に「強い」と語られる代表例を、いくつか挙げてみます。

  • 多井隆晴 — RMU代表。Mリーグでも屈指の通算成績を残し、攻守のバランスと判断の速さから「絶対的」とも評される存在。データ志向のAIが最初に拾いそうな名前です。
  • 鈴木たろう — 日本プロ麻雀協会の理論派。期待値を突き詰める打ち回しは、AIの思想と親和性が高いと言われます。
  • 佐々木寿人 — 連盟が誇る攻撃型。高い和了率で局面を支配するスタイルは、攻撃指標で際立ちます。
  • 堀慎吾 — 攻守ともに高水準で、タイトル・Mリーグ双方で実績を重ねる現代型の強豪。
  • 滝沢和典・園田賢ら — 安定した順位を長く維持してきた、いわば「崩れない」打ち手たち。

直近では、Mリーグ2025-26シーズンで個人首位に立ちMVPを獲得した下石戟のように、シーズンを通した数字で結果を出した選手も、AIの評価軸では高く位置づけられるはずです。もちろんここに挙げきれない強者は、男女問わず各団体に数多くいます。

AIは「測る道具」から「鍛える相棒」へ

面白いのは、AIがいまや評価するだけの存在ではなくなっていることです。多くのプロが、自分の対局をNAGAのようなAIにかけ、「どの一打がAIの推奨と違ったのか」を振り返る——いわゆる牌譜検討に、AIを日常的に使うようになりました。

かつては経験と勘で語られていた「なぜこの牌を切るべきか」という問いに、AIは具体的な根拠を返します。その結果、トップ層全体の判断精度が底上げされ、「強さ」の基準そのものが年々シビアになっています。AIに選ばれる強者は、AIを使って自らを鍛えた強者でもある——そんな循環が、いまの麻雀界では回っているのです。

運と実力は、どこで分かれるのか

ここで、麻雀という競技の難しさにあらためて向き合う必要があります。それは「どれだけ打てば、運がならされて実力が表れるのか」という問題です。

麻雀は、たった一局では弱い人が勝つこともある、運の比重が大きいゲームです。数十半荘程度では、まだ運の波が成績を大きく揺らします。実力差がはっきり順位に表れるには、数百、数千という対局の積み重ねが要る——これは多くのデータ分析が示すところです。だからこそ、長いシーズンを戦うリーグ戦の順位や、ネット麻雀の高段位が重視されるのです。

AIが「強さ」を語れるのは、まさにこの長期のデータがあるから。一夜の勝負ではなく、膨大な試行の果てに残る傾向——そこにこそ、本当の実力が宿ります。逆に言えば、短期間の結果だけで「最強」を名乗るのは、AIから見れば根拠の薄い主張なのかもしれません。

それでもAIは「一番」を決めきれない

ところが——AIに全データを渡しても、おそらく「これが唯一の最強だ」とは言い切れません。理由は麻雀というゲームの本質にあります。

第一に、運の振れ幅。一局単位はもちろん、一シーズン程度でも運の影響は消えません。本当に実力を分離するには、気の遠くなるほどの対局数が要ります。第二に、ルールの違い。団体ごとにルールが異なれば、最適な打ち方も変わる。あるルールで最強の戦略が、別のルールでは通用しないこともあります。第三に、スタイルの多様性。守備的な打ち手と攻撃的な打ち手は、評価軸の置き方しだいで順位が入れ替わります。

AIは「ある指標における優劣」は精密に示せても、「総合的に誰が一番か」という問いには、人間と同じく一つの答えを返せないのです。

強さは、ひとつじゃない

結局のところ、「一番強い雀士」を一人に絞ることに、あまり意味はないのかもしれません。AIが教えてくれるのはむしろ、強さには複数の形があるという事実です。崩れない安定。理論への忠実さ。場を支配する攻撃力。どれも本物の強さです。

JONGBOY は、団体の垣根を越えて、そうした多様な強者たちの戦いを横断で追いかけます。いつか各リーグのデータを並べて、「AI的な強さ」を独自に可視化してみるのも面白いかもしれません。その日まで、今日もどこかの卓で、強さの定義は更新され続けています。

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